2024/02/29 16:23

Littlemissとして活動を始めてから、『どんな糸を編みたいのか』についてずっと考えていました。

いや、考えていたはずなのですが、いつの間にか見て見ぬ振りして走っていた自分に気づきました。


『意味のある仕事として糸を編みたい』


それをもう一度思い出させ、確信に変えるきっかけをくれたのが、

canoan 中野紘子さんの糸と、hagi店主 園部さんの言葉でした。







糸を選ぶとき、「編み地の質感」はもちろん、細さや柔らかさによって変わる「編み心地」、「価格」「再現性」「独自性」など、自分なりにこだわりを持って選んできたつもりです。どんな糸にもそれぞれの魅力があり、仕立てたものをお届けして喜んでいただくことには確かに『意味のある仕事』で、それを否定したいわけでは決してありません。


初期の頃、特に多く編んでいたのは工場の残糸です。文字通りの”残った糸”。大量生産の流れの中では使えないような量でも、個人のちいさな仕事なら十分に活かせるということに喜びを感じていました。だから、その頃はそういう糸を探し求めていました。


そうしていろんな糸を探す中で出会ったのが、canoan 中野紘子さんの糸。中野さんから分けていただいているのは、手織りののちにどうしても残る、短い糸。そういう意味では”残糸”の仲間になるのだと思いますが、たとえ数センチの短さになってもそうは言いたくない程の魅力を持った糸でした。


※中野さんの手仕事の糸の魅力については、こちらに書いています

https://www.littlemiss-atelier.com/blog/2024/02/29/162344


思えば、私は幼い頃からいつも『もったいないものを活かすことができた!』とか『身近にあるものでこんなに素敵なことができた!』と思えた時、心の底から嬉しいと感じていたように思います。工作などの手遊びから始まったそれは、社会人となり仕事をするようになっても変わっていなかった。その流れで、今はこうして糸を編んでいるのかもしれないと思うくらいです。





中野さんとのご縁のはじまりは、数年前に遡ります。主に桜の枝で染めた優しいピンク色の糸を、春の時期にご紹介してきました。本当にたくさんの方にお届けし、喜ばれたと思います。お直しや金具交換のご依頼なども普段より多く、大切にしてくださる方が多いように感じ、私もそれをとても嬉しく思っています。


でも実は、桜色の他にも譲っていただいた個性豊かな糸が数多くあり、わたしはそれらを数年のあいだ寝かせたままにしていました。当時の自分にはまだ手に負えない、魅力を活かしきれない気がしました。軽い罪悪感のようなその気持ちは、ずっと心のどこかにひっかかっていて、箱から取り出しては眺め、触れ、元に戻すことを何度繰り返したか。


今回展示でお世話になるhagiさんには、毎年の様にお声をかけていただき様々な形で作品をお届けしてきました。hagiさんに何を送ろうかな?と考える時、必ずと言っていいほど中野さんの糸たちを取り出している自分がいました。ただ、ずっと勇気が出なかった。





桜色だけお届けしようと準備を進めていた中、展示の二ヶ月前、元日の能登半島地震。身近に大きな被害はかったものの、揺れに対する恐怖、心が締め付けられる様な感覚、恐ろしさに備えながら過ごす中で、何か価値観が変わったのかもしれません。思い立って店主の園部さんに相談してみました。


こんなに素敵な糸を

持て余していること。

何ができるかわからないけれど

編んでみたいと思っていること。


園部さんは全て喜びとして受け入れてくださり、楽しみにしていると答えてくださいました。コロナ禍にのまれて縮こまり保守的になっていた気持ちが、ひらけていく様な感覚になりました。背中を押していただきました。たとえ売れない様なものでも、これを編めたらまた違う『意味のある仕事』につながると思えました。






特別な糸で、受け入れてくださる先があるという安心感の元に製作する。そんな日々は、楽しく、嬉しく、睡眠時間も必要以上に削るほど。幸せホルモンが出てる!と感じる喜びに満ちた時間でした。この糸たちと向き合うのは今だったのだなと思います。Littlemissの歴史の中でもかなりのターニングポイントになると思います。


結果として普段より少し自由に、アクセサリー以外も製作することができました。あたらしい挑戦には緊張も伴いますが、何より自分が心から楽しんで製作できたことが嬉しい。ちいさな些細なものばかりですが、この気持ちはきっと伝わる様な気がしています。糸のちからも全面的にお借りして。







糸を分けてくださった中野さん、背中を押してくださったhagiの園部さんにとびきりの感謝を。私のしている小さなことを『意味のある仕事』にしてくださるお客様、前向きな力をくださるお一人お一人のおかげでここまで続けてこられて、こんな日を迎えられたことにも感謝を。地震もコロナも悪いことばっかりじゃなかったのかもしれないと思える今日、私は幸せ者です。


お近くの方にはぜひ、直にご覧いただきたいと思います。とはいえ何かと忙しい年度末、遠方の方も多いと思いますし、インスタグラム等を通じてのご紹介も併せて、記録として残すつもりです。


ここまで書いて、自分のことながら本当にたくさんの気持ちがあったなと思います。少し恥ずかしいけれど、ありのままに出して、清々しい心で。今後より深く『意味のある仕事』として、編むことに向き合っていきたいと思っています。長文にお付き合いいただきありがとうございました。